自転車泥棒

仕事を終え、ちょっとだけ踊ってから帰宅すると、私の愛車がない!銀がいない!自転車がない!青ざめる。ひとまずなんとか家の鍵を開け、ドアを閉め、深呼吸。銀はどこへ?子供を誘拐された親のような気分でオロオロする。

大体、アフリカに行っている間に前輪の空気を抜かれていたところからおかしかった。つい先日空気を入れたばっかりだったんだよ。止めている間にこんなぺしゃんこになってしまうなんてありえない。今まで6000㎞くらい走ったけど、一度たりともパンクしたことなんてなかったもん。誰かが故意にパンクさせたとしか思えなかった。気持ち悪いなぁと思いつつ、しばらく研修だったのでチャリ通勤はやめて電車通勤してたんだよね。銀をしばらく放置してた罰なのか。

とりあえずどうしていいかわからず、近所をウロウロ。道路に止まってる自転車や銭湯の前に並んでる自転車をチェックして、銀が紛れ込んでいないかをチェック。いない。いない。こんな大事なときなのに、ユニコーンの「自転車泥棒」って歌が頭を駆けめぐったりする。大体、あの歌はなんであんな軽快なリズムなんだ。イライラ。

自転車を盗んだ人はこの自転車が私にとってどんなに大切かなんて知らないだろう。鹿児島から北海道までいくつの峠と山を越え、どんなにたくさんの人や風景と出会い、私がどんな気持ちで彼と一緒に旅をしてきたかなんて知る由もないだろう。社会人になる1997年3月に三宮の自転車屋で彼に出会った。なんとなく直感で彼を選んだ。初めて輪行したときはとてもドキドキした。袋に入れて飛行機に乗せると、大抵彼はむずがって、袋から手や足をはみ出した。スピードを出しすぎると、そんな無茶な運転をする奴はイヤだと私を振り落とした。でも、肘をざっくり切って血を流している私を大急ぎで病院まで乗っけて行った。彼と私しか知らない数々の想い出があるんだよ。

すごくおセンチになって家に帰る。自転車を止めていたところでもう一度足を止め、その場をじっと眺めてみると、以前と違うことをいくつか発見。ぼろぼろだったガスメーターが新しくなってる。それからその横を通っているパイプに銀色の保護材がかぶせられている。もしかして、もしかして誰かがこういった作業をするために銀を移動したのかも!ちょっとドキドキしながらもう一度家の周りを確認してみると、いた!銀がいた!正規の自転車置き場の自転車達に紛れて、僕はここにいるよ、ってな感じでこっちをじっと見ていた。大げさだと思われるかもしれませんが、ホントに泣きそうになった。

離れて分かる愛の深さかな。